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街の中のヒヤリハット 自転車編

この仕事を始めるようになってからというもの、街の中でふとした瞬間に起こる様々な出来事を
「過失の有無」とか「誰がどれくらい悪いか」とか「どんな保険で対応出来るか」で見てしまって、しばらく考えこむ事があります。立派な職業病ですね。

今年のゴールデンウィークは久しぶりに行動制限のないお休みだった事もあって、人出が多かったわけですが、そんな中で起きたヒヤリハット事例を今回は考えてみたいと思います。

特に5月は自転車月間ですので、これを機に自転車をお乗りになる方はもちろんの事、
小さなお子様をお持ちのお父さまお母さまには絶対読んで頂きたいです!

発生日時

画像は Google ストリートビューより転載

日時:2022年5月2日 午後5時過ぎ頃

場所:兵庫県 西宮市 神楽町 9番付近の自転車専用道路上

現場の状況

ヒヤリハットの状況:国道2号線に面したスポーツスクールに通う子供がスクールバスから降車し、自転車専用道路を横切ろうとした際に、走行中の自転車と接触しかけた。

自転車の動き:西から東へ直進

子供の動き:路外に停車中のスクールバスから降車後、自転車専用道路を南→北へと直進

私は当時、上の画像の左端にある歩道を自転車と同じ方面(西→東)に進んでいました。
当時は夕方でしたが陽はまだ高く、見通しも良い状況でした。

この道は画像手前から奥に行くにつれて下り坂になっており、自転車はペダルを漕がなくても
一定程度スピードが出るようになっています。

私の右後方から自転車歩行者道を、一台の自転車が通りすぎたと思った次の瞬間、
右前方のスクールバスから子供が二人、猛スピードで歩道を横切って行きました。

すんでの所で、自転車が歩道側にハンドルを切って子供を回避し、事故には至りませんでした。

めでたしめでた…し?

という訳には参りません。今回は事故が無かったから誰も悲しまずに済みましたが、
これで自転車と子供が接触していたら…?接触していないにしても何か別の事故を誘発していたら…?

そうならない為に一緒に検証してみましょう!
まずはさっきから出てくる「自転車専用道路」のご説明から参ります。

自転車専用道路ってなに?

先ほどから「自転車専用道路?」とお思いになられた方、多いと思います。
恥ずかしながら、私も正確に調べたのは今回が初めてです。

写真をご覧ください。これはヒヤリハットの現場から数メートル西にある交差点です。
こちらに丸い、青地に白で自転車のマークが記されている道路標識がございます。

これが規制標識325-2「自転車専用道路」です。
意味はそのまんま「自転車のみが通行可能な道路」「歩行者の通行はしてはならない」とされています。

道路法 第七節 第四十八条の十三では以下のように規定されています。
「道路管理者は、交通の安全と円滑を図るために必要があると認めるときは(中略)区間を定めて、もつぱら自転車の一般交通の用に供する道路又は道路の部分を指定することができる。」

前述の通り「第四十八条の十五」で歩行者の通行は禁止されており、「第四十八条の十六」では、道路管理者は、規定に違反している者に対し、通行の中止その他交通の危険防止のための必要な措置をすることを命ずることができる。とされております。

ではこれらを踏まえて、事項で「もし」事故が発生していたら?を検証してみましょう。

子供が怪我をした場合

誰が悪いの?

子供と自転車が接触し、子供が怪我をしてしまった場合は誰がどれくらい悪くなってしまうのでしょうか。
前項でご説明した「自転車専用道路」上での自転車と歩行者の事故ですから、歩行者が悪くなってしまう…

のではなく、過去の判例から類似した事例(判例タイムズ・図85)で鑑みるに
自転車 80
歩行者 20
の過失割合で、自転車に過失があるのではないかと思われます。

また、今回のケースでは歩行者はお子様でしたので、過失修正

自転車 85
歩行者 15

の過失割合で示談交渉がスタートする可能性が高いと言えます。

自転車専用道路は歩行者の通行禁止だから、子供が悪いんじゃないの?!

と思われるかもしれませんが、通行は禁止なのですが、横断は禁止されておらず、
自転車側が「道路に停車中のバスから人が降りてくるかもしれない」という注意義務から
この様な過失割合になる事が考えられます。

相手への治療費などの支払いはどうなるの?

兵庫県は全国に先駆けて平成27年10月から、それに続いて大阪府が平成28年7月、京都府も平成30年4月より自転車を利用する方の損害賠償保険への加入が義務づけられています。

一般的には「個人賠償責任保険」という名前で、くるまの保険や火災保険等の特約として、または共済などでも広く安価に販売されており、知らない間に加入していたという方も多くいらっしゃいます。

自転車を購入した際や整備した際にもTSマーク保険が付帯されているケースもあるのですが、
付帯されている保険金額が少ない場合もあるので、別途加入された方が安心だと思います。

上記のような保険に加入していれば、治療費等のお支払いは保険で対応が可能ですが、もし加入されていない場合は自腹で支払う必要があります。

賠償金額は?

兵庫県で全国に先駆けて自転車条例が交付された理由の一つに、神戸市で平成20年9月に発生した事故があります。

男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となり、五年後に神戸地裁で出た判決は「男児の母親に9,521万円の賠償を命ずる」ものでした。

係争の内容についてはここでは省略致しますが、治療費や慰謝料は勿論の事、仕事が出来ない場合の休業損害や、仕事を続けられていた場合に得られただろう金銭に対する逸失利益、後遺症による介護費用を含む高額賠償となりました。

今回のケースだと、お子様ですから休業損害は発生しないにしても、ご家族が身の回りの世話をしないといけないので、間接的な費用損害が発生するおそれがあります。
また、後遺障害が残るような大きな事故に発展した場合には、介護費用が上記事例より大きくなる可能性が高いと言えるでしょう。

子供と接触は免れたが、自転車が転倒し怪我をした場合

誰が悪いの?

さて、前項でご説明したように、自転車専用道路を横断したとしても歩行者の方が過失が少ないわけなのですが、
それによって子供が無傷、自転車運転者が受傷してしまったとしたら、誰が悪いのでしょうか?

結論から申し上げますと

自転車 80
バスの運転手ないしはスポーツスクールの運営会社 20

の過失割合で、自転車に過失があるのではないかと思われます。

「自転車専用道路のルールを守って走行してるのに!なんで?!」って思いませんか?
私は思いました。

残念ながら、自転車専用道路がある場合、自転車はそこを通行するのが「あたりまえ」ですので、
そこを通行しているから過失が無いというわけではないんです。
逆に、自転車専用道路があるのにも関わらず、歩道や車道を通行していた時には、自転車側の過失が大きくなるという事なんですね。

ベースとなる考え方は前項と同じで「自転車専用道路の歩行者の横断は禁止ではない」という事です。
バスの運転手さんが子供が降車する際に注意喚起を行う必要があると考えられるので、過失修正された5%は無くなるものの、残念ながら8:2の過失割合のベースは変わらない…という事が予想されます。

賠償金額は?

前項での賠償額のように後遺障害などが発生し、賠償金が高額化するケースがあるかもしれませんが、受取る事が出来るのは先方に過失がある20%部分のみです。

足らない治療費・生活費・介護費用これら全てご自身の蓄えからの持ち出しとなってしまうのです。
傷害保険などに加入をしていれば、治療費等は担保が可能ですが、働けなくなってしまった時の
就業不能保障等に加入をされていない場合だと、生活が困窮してしまう可能性があります。

私がこの立場に置かれたとしたら…
家族を養うどころか、家族に養ってもらう側になってしまったとしたらと考えると、恐怖しかありません。

こんなたった一瞬の些細な出来事で、今後の人生が思い描いていたものと全く異なったものになるかもしれないんです。

別の被害を誘発するケース

以前、大阪ではこの様な事故がありました。

2011年5月12日午前8時55分頃、大阪市浪速区日本橋東の国道25号で、タンクローリーが歩道に突っ込み、歩道にいた男性2人をはねた。2人はタンクローリーと歩道脇の建物の間に挟まれ、全身を強く打って、病院に搬送されたが間もなく死亡した。

原因は、自転車の無理な道路の横断でした。
自転車が横断歩道でない場所を十分な安全確認をしないまま横断しようとした結果、自転車を避けようとした乗用車に急な車線変更を強い、自転車と乗用車が接触。
更には乗用車を避けようとした後方のタンクローリーが道路脇の歩道に乗り上げて起こった事故でした。

乗用車の運転手および、タンクローリーの運転手は自動車運転過失致死容疑などで逮捕されましたが、後に嫌疑不十分で不起訴となりました。

自転車の運転手は「著しく注意を欠いた危険、身勝手な行為で事故を誘発し、重大な結果を生じさせており、刑事責任は相当重い」として禁錮2年・中型車と二輪車の運転免許停止処分(180日)の実刑判決となりました。

この自転車を運転していた60歳の無職男性は裁判官から「なにか言いたい事はあるか?」と聞かれ「俺が悪いんですか。向こうは車で殺したんですよ」と強く言い放ったと言います。

仮に自分の身内がこの事故で亡くなってしまったとしても、無職男性に賠償資力が無ければ十分な賠償金を受け取る事が出来ない可能性があります。

もし万が一、この無職男性が個人賠償責任保険に加入していなかった場合加害者への請求は難しいでしょう。

被害者救済の観点からみれば、タンクローリーの自動車保険で賠償金が支払われている事を切に願うばかりですが、賠償金が支払われるのはタンクローリーの運転手に法律上の賠償責任があったと認められた時だけです。
「右方から自転車が飛び出してくるかもしれない」という予見は非常に難しいと言えるのではないでしょうか。
保険会社がどのような判断をするかは検討がつきません…

対岸の火事じゃないんです

いやいや流石に極端な事言い過ぎじゃないの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

上記の例は今回のケースとは異なり、自転車の無謀な道路横断の結果によって引き起こされた事故ですが、もしも今回のケースで自転車が歩道側にハンドルを切らず、バス側にハンドルを切っていたらどうだったでしょうか?

自転車の前輪が縁石に乗り上げて、自転車の運転手が幹線道路上に投げ出されたかもしれません
乗用車がそれを避けるためにハンドルを切って、中央分離帯ないしはスクールバスに激突したかもしれません
道路上に投げ出された自転車の運転手が後続自動車と接触したかもしれません
コントロールを失った自転車が横断中の子供に接触したかもしれません
後続車が更に追突事故を発生させるかもしれません


「風が吹けば桶屋が儲かる」式に事故が事故を誘発する最悪の予想をしてみました。

ですが、ほんの些細な状況判断の誤りで、簡単に大きな事故は起こってしまうのです。

さいごに

子供って、なんで移動手段が基本「走る」なんでしょうか?
かくいう私もすぐに走って迷子になる子供だったので、今の時代に私が子供だったらきっと母親に首からAirTagぶら下げられて、スマホで探されたりしたのかもしれません。余談でした。

今回のケースは見てる私も、自転車の運転手も、子供2人も「あっぶなかった~」と思うくらいで済んだので良かったものの、これが事故に発展していたら、折角のゴールデンウィークも台無しです。

「ゴールデンウィーク台無しで済めばまだ可愛い」という程度の事故だったら…と思うとゾッとします。

私は自転車には乗らないのですが、子供にはきちんと教えておかないといけないなぁと思ったヒヤリハット事例でした。

なにもないのが一番!ですが、「もしも」に備えて、普段自転車に乗られる方は「個人賠償責任保険」を、自転車に乗られない方も、ご自身やお子様にお怪我に備えがあるかどうかを一度ご確認してみて頂ければと思います。


※本コンテンツについては実際にあった事例を取り上げます。当事者の権利保護には十分に配慮致しますが、お気づきの点等ございましたら、弊社お問い合わせフォームよりご連絡くださいませ。