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「がん」を考える② ~治療編~

4月25日は小児がんゴールドリボンの日という事で、がんにまつわるお話をしたいと思います。
前回は「がん」という病気についてをご説明致しましたが、シリーズ第二回目となる今回はがんの治療法に焦点を当ててご案内致します。
痛みや苦しみが長期間続くなどのイメージをお持ちの方も多いと思いますが、日進月歩のがん治療の世界を是非ご覧ください。

はじめに

4月25日は「小児(42)」と「ゴ(5)ールドリボン」で、小児がんゴールドリボンの日です。

小児がんとは、一般的に15歳以下の子供が罹患するがんの総称で、大人のがんに比べれば患者数が少なく希少がんと言われますが、
毎年2,000~2,500人の子どもたちが新たに診断されています。

治癒率は70-80%と高いのですが、身体が未発達な子供では進行が非常に速いこともあり、病死原因の第一位でもあります。
私たちもゴールドリボン・ネットワークの一員として、小児がんの子供達が安心して笑顔で生活できる社会づくりに取り組むべく、
がんについての情報提供を行って参りたいと思います。

がんの治療方法ってなにがあるの?

がんの三大療法は「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」といわれております。

がん治療といっても様々な手段があり、臓器に発生する「固形がん」と血液に発生する「血液がん」では、治療法が異なります。
がんの治療はがんの種類と進行度、年齢や性別、社会環境やご本人の希望等から総合的に判断して決定されます。

ひと昔前までは、がんイコール不治の病と考えられていましたし、
その治療方法も「手術で患部を切除する」「吐き気に耐えながら抗がん剤治療を行う」といった精神的、肉体的に辛いもので、
更には治療期間中は長期間の入院を余儀なくされるといった、社会生活との孤立を余儀なくされるものでした。

現代では、外来の化学療法が中心となった事から、入院も非常に短期化され、
仕事や日常生活をなるべく従来通り継続しながら、がんと付き合う治療法が主流となっています。

また、三大治療は単体で行われるケースは非常に少なく、手術で全てのがんを取り除く事が出来たと言い切れない場合は、放射線治療や抗がん剤を組み合わせることで、がんの転移や再発を防いでいます。
このような、複数の種類の治療法を組み合わせて、総合的に治療を進める方法は「集学的治療」と呼んでいます。

手術療法

外科手術により、メスでがん組織を切り取ってしまう治療法です。
がん細胞を取り残こす事のないように、周辺組織を大きめに切除したり、リンパ節に転移があれば、同時に切除します。
手術で臓器を切除したことによって正常な機能が失われてしまう場合には、臓器同士をつなぎ合わせるなどの機能を回復させるための手術(再建手術)を行う事があります。

メリット

がんが一気に取れる事と、検査ではわからないごく小さな転移(微小転移)がない場合、完治の可能性が高い事です。

デメリット

デメリットは身体にメスを入れるため、創部の治癒や全身の回復にある程度時間がかかり、切除した部位によっては臓器や体の機能が失われる事がある点です。
また、ごく小さな転移(微小転移)は治療できない事や、手術不能な場所にできたがんには対応出来ない事が挙げられます。

手術は体に大きなストレスや侵襲(体の内部の状態を乱す刺激)を加えますので、手術中や手術後の経過が100%良好であるとは限りません。

しかし近年、切除する範囲をできるだけ最小限にとどめる縮小手術や、腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術、ロボット支援下手術といった、
身体への負担を少なくする手術(低侵襲手術)の普及が進んでいます。

化学療法

主に、抗がん剤によってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする治療方法です。薬物療法と呼ばれる場合もあります。
静脈への注射や、点滴、内服する事で、体内に潜むがん細胞の分裂・増殖を阻止して、進行や転移を抑える事を目的としています。

メリット

血液のがんである白血病や悪性リンパ腫、がんの種類や進行度によって手術ができない場合に有効性があり、
血液を通して全身のすみずみまで運ばれ、ごく小さな転移にも効果がある事です。

デメリット

脱毛、吐き気、倦怠感、しびれ感といった副作用と、肝臓や腎臓、造血器官などへの障害があり、身体への負担が大きい事や、継続して使用するうちに「耐性」が出来てしまう事。

他にも正常な細胞にも影響を与えてしまう副作用がある事等が挙げられます。

しかし、吐き気などの副作用を抑えたり、白血球の減少を抑える薬の開発などによって、日常生活に支障がない程度に、症状を軽くできるようになってきています。
また最近は、がん細胞だけに作用する分子標的治療薬の開発が進み、実用化されているものが増えています。

他にも、乳がんや子宮がん、前立腺がん、甲状腺がんなど、ホルモンが密接に関わっているがんに対しては、
「ホルモン療法(内分泌療法)」がよく行なわれます。特定のホルモンの分泌や作用を抑制することで、がん細胞の活動を抑えて腫瘍を小さくしたり、転移や再発を抑えたりします。
ホルモン剤のメリットは正常な細胞に作用しないため、細胞障害性抗がん薬と比べて副作用が少ない点ですが、
一方で性ホルモンの働きを止める為、更年期障がいに似た症状が出たり、骨粗しょう症になる可能性があります。

放射線療法

がんの病巣部に放射線を照射して、がん細胞を死滅させる局所療法です。
X線、電子線、ガンマ線、粒子線といった放射線の「細胞分裂を活発に行う細胞ほど殺傷しやすい性質」を利用し、がん細胞内のDNAにダメージを与えて破壊します。
一定の線量を小分けにして何回も照射する事で、正常な細胞にはあまり影響を与えずに治療が出来る事から、
手術が大きく負担となるような高齢者や合併症が心配な方等では第一の選択肢となる場合もあります。

メリット

臓器の形や働きを治療によって失う事がなく、全身への影響を抑える事が可能である事。

デメリット

放射線を照射した部位(皮膚や毛根)の障害と、一時的に皮膚や粘膜の炎症症状、骨髄抑制(骨髄の造血機能が低下する事)が起こる可能性がある事です。
また、照射開始後まもない時期に吐き気や全身の倦怠感、食欲不振が起こる事があります。
その他、放射線被爆による副作用の懸念から、過去に放射線治療を受けた場所の近くにがんができた場合は、かけられる放射線の総量が決まっている事から、再発を含めて放射線治療は出来ない事になっています。
同様の理由で、一度に照射する事が出来ず、6~7週間に渡って治療が必要な事から、通院日数が多くなります。

ですが、治療前の検査技術や照射方法の進歩によって、がんの大きさや位置を正確に測り、その部分だけに集中的に照射することが可能になって、効果は格段に向上しています。
また、体の外側から放射線を照射する「外部照射」だけでなく、放射線を出す物質を密封した針やカプセルを病巣部に挿入する「密封小線源治療」、
放射性物質を注射や内服で投与する「放射性同位元素内用療法」、このほか、粒子線を使う陽子線治療や重粒子線(炭素イオン線)治療も実用化が進んでいます。

先進医療について

前項でご説明した治療法は、がんの種類や進行の程度に応じた「標準治療」と呼ばれるものです。
これは科学的な根拠に基づいて、現時点で利用できる最良の治療法のことを指しています。そしてこの標準治療には公的健康保険が適用されます。

「先進医療」とは、健康保険法に基づいた高度な医療技術であり、保険医療の対象にするべきかどうか、判断が難しい技術に対して厚生労働大臣が定めた医療の事を指し、厚生労働省の指定を受けた医療機関でのみ実施する事が出来ます。

先進医療は治療効果に関する科学的証拠がまだまだ少ないとされる為、健康保険は適用されません。
しかし、将来的に健康保険の対象になる可能性があるため、保険診療と併用した『混合診療』を受ける事が可能です。

新しく開発された治療法や新薬は、即座に保険診療に導入されるわけではありません。
保険適用可否について評価する「評価療養」という審査があり、先進医療もその対象の一つです。
たしかな有効性や安全性が認められなければ「先進医療」の指定から削除されることもあります。

先進医療の種類について

令和4年3月1日現在、厚生労働大臣が定めている「先進医療」は81種類。
その内、「第2項先進医療【先進医療A】」が24種類「第3項先進医療【先進医療B】」が57種類あります。

有効性がある程度明らかで安全性の問題が少ない物が 「第2項先進医療【先進医療A】」
有効性が必ずしも十分に明らかで無いが、一定の条件を満たせば保険診療との併用を可能とした物を「第3項先進医療【先進医療B】」と位置づけています。

がんにおける先進医療

先進医療は、厚生労働省が定めた基準を満たした医療機関でのみ受けることが可能です。
先進医療を実施している医療機関の一覧は、次の厚生労働省のサイトで見ることができます。
先進医療のメリットは、治療の選択肢が増える事です。

しかし、まだ新しい治療方法なので予期せぬ副作用が起こる可能性もあり、長期的な安全性が確保されにくい事や、
先進医療を受けられる施設が限定されていることに加えて、先進医療に係る費用は患者の全額自己負担となり、生活へのダメージが大きくなる事が挙げられます。

「先進医療に係る費用」以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われますが、自治体によっては経済的な支援制度を設けている所もあり、確定申告では医療費控除も受けられます。

がん保険の「先進医療特約」に加入している場合、希望の治療が該当するかについては確認が必要です。

尚、先進医療と紛らわしい「最新治療」や「先端医療」と称する治療法の中には科学的根拠や必要性が曖昧な物が含まれている為、混同しないように注意が必要です。
期待する効果が得られないばかりか、高額な治療費を請求されるケースがあるので、それが本当に必要な治療なのかを見定める必要があります。

ロボットを使用した手術

手術における先進医療の代表例がロボットを使った物です。 
どんなに手術が上手なお医者さんであっても、毎回寸分違わぬ動きが出来るというわけではありません。
また、腹腔鏡を用いた手術の際には助手がカメラを操作していた為、思わぬ手ぶれが生じることもありました。

これらの問題を解消したのがダビンチ ・システム(Intuitive Surgical社製のda Vinci Surgical System)です。
内視鏡下手術支援ロボットといい、患者の腹部に小さな穴を開けてロボットアームと内視鏡で手術を行います。

従来の腹腔鏡手術では、2次元だった映像も、3次元の立体画像を見ながら手術が出来、人間には不可能な手首を360°回転させるような動きや、完全な手ぶれ補正、手の動きをキャリブレーションしてより細かく動かす事も可能となりました。これにより体内の狭い空間でも自由に器具を操作する事が出来ます。

また視野を5~15倍まで拡大する事で、細かい血管や神経・臓器の境界等を確認出来るようになり、従来より高度な手術を行えるようになりました。

泌尿器科のがん(前立腺がん、腎がん、膀胱がん)、消化器のがん(直腸がん)や子宮頸がん等が対象となります。
数年前と比較すると、健康保険対象の手術も多くなり、広く用いられるようになって来ています。

免疫療法について

皆様も一度は耳にした事があるかもしれませんが「オプジーボ(ニボルマブ)」と呼ばれる薬があります。
これは「免疫チェックポイント阻害薬」の一種で、薬が直接がん細胞を攻撃するのではなく、元々体内にある「免疫」の力を利用して、がん細胞への攻撃力を高める治療法です。

免疫チェックポイント阻害薬とは

人間の身体には、ウイルスや細菌が入ってきた時に攻撃する為の免疫が備わっています。

この役割を担うのがT細胞という免疫細胞です。
しかし、このT細胞が働きすぎると正常な身体にまでダメージを与えてしまう為、活性化したT細胞の表面にはPD-1というたんぱく質が出て、T細胞を抑える信号を出します。

最近になって、このPD-1の仕組みをがん細胞が悪用している事が解りました。
がん細胞がPD-L1というたんぱく質を出してPD-1と結合させる事で、T細胞から攻撃されないようにしていたのです。

免疫チェックポイント阻害薬は、血液のT細胞のPD-1と結びつくことでがん細胞と結合しないようにし、T細胞が妨害を受ける事なく、がん細胞を攻撃出来るようにします。

高額な薬価について

オプジーボが日本で初めて承認されたのは2014年。
当時はメラノーマという皮膚がんだけが対象でしたので、薬価は非常に高額に設定されました。

100mgで約73万円でしたので、日本人の男性の平均体重とされる体重66kgの人が1年間投与した場合、月に約315万円、1年間では3,800万円もの薬価となります。

2015年12月に肺がんの治療薬として適応拡大されると、ニュースで大々的に取り上げられる事となり、2017年に当初の半額に引き下げられ、現在では100mgで15万5000円と、当初の5分の一まで安価になりました。

保険診療であれば月に約65万円、年間800万円の薬価代はほとんどの方が健康保険適用で3割負担となりますが、それでも約20万円の薬価代は簡単に捻出出来ませんので、「高額療養費制度」という仕組みが設けられています。

日本の公的な健康保険に加入している人であれば誰でも利用が可能で、年収や年齢によって変動はありますが、年間の薬価代の自己負担額は年間70万円程度まで下げる事が出来ます。

遺伝子治療について

がんの遺伝子治療は「がんゲノム医療」と呼ばれ、ゲノム=遺伝子(gene)と染色体(chromosome)を組み合わせた「DNAのすべての遺伝情報」という意味の造語が表す通り、がんの原因となる遺伝子の変異に基づいて診断・治療を行う医療の事を指します。

遺伝子を検査する

これまでのがん医療では、がんの種類別に治療や薬が選ばれていましたが、近年、がんの原因となっているタンパク質やその基となる遺伝子の解明が進み、正常な遺伝子にもダメージを与える抗がん剤治療から、がんの分子や遺伝子のみに効果のある「分子標的薬」が開発されました。

このように、がんの種類だけではなく、遺伝子変異等のがんの特徴に合わせて、一人一人に適した治療を行う事を、「個別化治療」と呼び、少数の遺伝子を調べる「がん遺伝子検査」と、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」に基づいて行われます。

がん遺伝子検査は、がんの診断や、どんな薬なら効果が期待出来るのか、副作用が出やすいのかについての判断材料とされます。

がんゲノム医療とは

がん遺伝子パネル検査で得られた結果は、主治医の他、遺伝医学や病理学の専門医、遺伝カウンセリング技術を持つ医療関係者などが参加する会議で詳しく分析されます。

この仕組みを「エキスパートパネル」といい、全国各地のがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院で開催されます。そこで作成される報告書をもとに、治療法を選択します。

同じ部位のがんと診断された患者さんであったとしても、変異している遺伝子が違えば、薬剤の効果や副作用は異なる場合があります。また、違う臓器のがんでも遺伝子変異が同じであれば、同じ薬剤が効果を示す可能性があります。
他にも、検査の結果、遺伝子変異が見つからない場合や、適切な薬剤が見つからない場合があります。

がんゲノム医療は全国12か所のがんゲノム医療中核拠点病院、33カ所のがんゲノム医療拠点病院、それらと協力してがんゲノム医療を行う188カ所の連携病院が厚生労働省により指定されています。(2022年4月現在)。

最後に

第二弾は大まかにではありますが「がん」という病気の治療法についてご説明致しました。

私は初めて免疫チェックポイント阻害薬をセミナーで聞いた時に、
「がん細胞ってなんちゅう狡猾なやり口で増殖するねん!」と驚いたのですが、そんなインパクトが少しでも伝わって、興味を持って頂ければ幸いです。

次回は実際にがん治療施設に潜入した時のレポをしようかと考えております。是非ご覧ください。