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企業向け・リスクマネジメント「あの後どうなった?」飲食店・食中毒編

過去に大々的に報じられた事故・事件であったとしても、その後どう終結したかを知る事は案外難しいものです。
しかしそこに私たちは法人のお客様が抱えるリスクについての学びがあると考えます。
ある日突然、一瞬の内に法人の運営が困難に陥るような大きな災難に遭遇し、社長が社会的・
法的・道義的責任を果たさなければならない加害者となってしまった時、どのような備えを持てば事業の継続が可能なのか。

過去の事例を元に検証し、少しでも経営者の皆様のお役に立てればと思います。

●はじめに

法人の代表者様向けに、過去の事例を検証し事業存続への備えを情報提供する、
企業保険リスクマネジメント「あの後どうなった?」シリーズ。

第二弾は2011年4月の、焼肉店が提供したユッケによって発生した大規模な食中毒によって
5名の尊い命が犠牲になってしまった死亡事件を検証したいと思います。

事件から10年が経過しましたが、同様の死亡事例が今年9月に京都で発生した事もあり、
改めて当事件を取り上げる事で、リスクへの気づきが得られればと考えました。

この事件で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますと共に、食中毒被害を受けた皆様、
その関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます。

今回登場する保険
焼肉店  生産物賠償責任保険・休業補償
卸売業者 生産物賠償責任保険・休業補償

※文章内の情報については当時の報道等を基に精査し記述しますが、万一誤り等がございましたら、弊社お問い合わせフォームよりご連絡くださいませ。
※本コンテンツについては実際にあった事故・事件を取り上げます。当事者の権利保護には十分に配慮致しますが、お気づきの点等ございましたら、弊社お問い合わせフォームよりご連絡くださいませ。

●事件の概要

2011年4月、株式会社フーズ・フォーラスが運営する焼肉チェーン「焼肉酒屋えびす」で、大規模な食中毒事件が発生しました。
食中毒患者は実に181名に上り、内5名の方が溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome;HUS)を発症し、10歳以下の小児2名を含む計5名が死亡するに至りました。

保健所の調査の結果、和牛ユッケ(牛肉の赤身部分を用いた細切りの刺身)として提供された牛肉から、腸管出血性大腸菌O-111が検出された為、「焼肉酒屋えびす」の一部店舗が営業停止処分となりました。

原因究明の為、富山、福井、神奈川の3県警と警視庁の合同捜査本部が店舗の家宅捜査や事情聴取を行った所、
食肉卸業者「大和屋商店」が、フーズ・フォーラス社に対して汚染したユッケ用もも肉を納入した可能性が高い事が分かりましたが、フーズ・フォーラス社は営業再開の目途が立たず、事件発生から約2か月後の2011年7月に、法人を解散、清算手続きに入る事になりました。

株式会社フーズ・フォーラス・焼肉酒屋えびすについて

「焼肉酒家(やきにくざかや)えびす」は、株式会社フーズ・フォーラスが経営する郊外型の焼肉チェーン店です。

創業は1997年5月、富山県高岡市で1号店を開店、社長と両親が店を切り盛りする同族経営企業としてスタート。
98年に有限会社フーズ・フォーラスを設立し法人化し、2000年に株式会社化、2009年10月までに富山・石川・福井の3県で16店を出店するまでに成長。
2009年12月からは「100円えびす」と銘打った更なる安価路線に舵を切り、2010年より首都圏に進出、神奈川県に出店し20店を構えるまでになりました。

特徴は当時の焼肉チェーン業界の中でもトップクラスの低価格で、トントロや豚バラ、若鶏などの6品が105円(税込)、和牛カルビ・和牛ロースは330円、和牛ユッケは280円で提供していました。

安価なだけではなく、ニューヨークをイメージしたお洒落な内装で非日常が味わえる事、低価格ながらも1テーブルに1人の担当者が接客するという、
きめ細やかなサービスが受けられるとあって、日本テレビ系「人生が変わる1分間の深イイ話」2011年4月18日の放送でも取り上げられ、全員一致で高得点となるなど、高い評価を受けました。

代表取締役社長の勘坂康弘氏は
「フーズ・フォーラスが目指すのは「日本一の伝説となるレストランチェーンを創る」こと。」とし、「商品力で日本一、接客サービス力で日本一、店長の平均年収で日本一」の三つを掲げ、
2014年までに東証マザーズ上場、17年までに東証1部に昇格。20年には300店出店を目標としていました。

参考資料:当時のテレビコマーシャル
参考資料:富山テレビ『食人列伝2008~冬の陣~』
参考資料:当時のグルメリポート

大和屋商店について

株式会社大和屋商店(やまとやしょうてん)は東京都板橋区に本社を置く、食肉卸売業者です。
代表取締役は長田長治氏。フーズ・フォーラス社は自社のウェブサイト上で取引先を募集しており、大和屋商店とは事件発生の約2年前、2009年7月ごろより取引を行っていたようです。

今回の食中毒の原因となる食肉をフーズ・フォーラス社に納入しました。

参考資料:大和屋商店は牛肉や豚肉、鶏肉から羊の肉までを取り扱う食肉卸専門店です。TOP (archive.org)

●事件の経過

破竹の勢いで成長を続けたフーズ・フォーラス社。順風満帆に見えた日本一のレストランチェーンへの道が夢半ばで閉ざされる事となったのは、2011年4月、神奈川県に4店舗目を出店したばかりの事でした。

2011年4月27日~2011年4月29日

2011年4月27日
砺波店を利用した5名が下痢や発熱、腹痛などを訴え、医療機関を受診、3名が入院。
富山県は、えびす砺波店を4月27日から3日間の行政処分(営業停止命令)とし、食中毒の発生を公表しました。
この日よりフーズ・フォーラス社は「和牛ユッケ」の販売を停止。

2011年4月28日
入院患者は13名(内、重症者4名)に増加し、原因は和牛ユッケである事、腸管出血性大腸菌O-157およびO-111である事と推察された。
(O-157は患者17名(30/181名)から検出されたが、重症患者はO-111罹患者に限られている事から原因菌ではなかったとされている)

板橋区保健所が、ユッケ用の食肉を納入した、食肉卸売業者「大和屋商店」へ一度目の立ち入り調査。
富山県は、えびす高岡駅南店に対し4月30日からの3日間の行政処分(営業停止命令)を下しました。

2011年4月29日
フーズ・フォーラス社による一度目の記者会見。29日より全店舗の営業自粛を発表。

この日、21日に砺波店を利用し、24日より入院していた6歳男児の死亡が報道されました。

またその際には報道されませんでしたが、17日に福井渕店を利用し、血便等の症状で21日に入院していた6歳の男児が、27日に既に亡くなっていました(報道は5月1日)。

食中毒の発生が発表されてからわずか3日余りの出来事でした。

●腸管出血性大腸菌・O-111とは

今回の食中毒を引き起こした原因は「和牛ユッケ」用の牛肉に付着していた「腸管出血性大腸菌 O-111」でした。
皆様は「オー○○〇」と聞くとO-157を連想する方も多いかと思いますが、その仲間にあたる菌です。
重篤な食中毒を引き起こす事はご存知かと思いますが、実際はどのような菌なのでしょうか。

・腸管出血性大腸菌とは
大腸菌はヒトや動物にいる腸内細菌の一つであり,ほとんどのものは病原性がなく無害です。
しかし、一部の大腸菌はヒトに対して病原性を持ち「病原性大腸菌(または下痢原性大腸菌)」と総称され、食中毒の原因となり得る菌です。

この病原性大腸菌にはいくつかの種類がありますが、その中でも症状が重く、かつ発生度の高い物が腸管出血性大腸菌です。

腸管出血性大腸菌にはいくつかの種類があり、食中毒の原因となる代表的なものにO-26、O-111、O-157 と呼ばれる菌があります。
このうちO-157は食中毒の原因菌として見つかる割合の高い菌です。

腸管出血性大腸菌が怖い理由の一つがべロ毒素と呼ばれる強力な毒素を出すことです。この毒素が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)など治療が難しい症状を起こすことがあり、重篤な場合は死に至ることもあります。

また、少量の菌でも食中毒を起こし、低温にも強く凍結にも耐えます。

菌に汚染された食品や箸等の食器・調理器具または手指を介して広がります。
ただし,熱に弱く、75度1分以上の加熱で死滅します。
感染すると、2~9日(多くは 2~5日)の潜伏期間を経て激しい腹痛を伴った水様性の下痢が起こり、まもなく血便がでます。

(引用元より再構築)
引用元:ヒトに悪さをする大腸菌について 新潟市衛生環境研究所 衛生科学室 菊池 綾子 先生

・溶血性尿毒症症候群(HUS)への対処

腸管出血性大腸菌(EHEC)による食中毒は、重症化すると死に至ったり、重い後遺症が残ったりすることがあります。特に重篤な症状を引き起こすのは、菌が出す毒素によって貧血や急性腎不全になる「溶血性尿毒症症候群(HUS)」。

今回のユッケ食中毒では181名の食中毒患者の内、溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した方は31名。
またその溶血性尿毒症症候群(HUS)患者の内、脳症を発生した方が21名に上りました。
今回の食中毒で亡くなられた5名全員が溶血性尿毒症症候群と脳症を発症しています。

①HUSとは
腸管出血性大腸菌がつくる毒素は体内に吸収され、血液に入り、体全体を回り、腎臓などレセプターがある臓器が障害を受けます。
その結果、貧血や血小板減少、腎不全が起こります。この状態が溶血性尿毒症症候群(HUS)です。
脳に毒素が回った場合は、脳梗塞や脳出血などの脳障害が出て、後遺症が残ることもあります。
腎臓の障害も同様です。

②HUSを発症する人としない人の違いは?
発症する人としない人の違いは、体質なのか、菌を含む物を食べた量なのかは、分かっていません。
O-157は胃酸では死なず、腸内で増殖します。菌が増えれば毒素も増える。
食べた量も関係するでしょうし、体内に吸収される毒素が多いかどうかは腸の状態で変わると思います。

③下痢止めや抗菌薬(抗生物質)の効果は?
下痢止めは腸管の運動を無理やり止めるので、毒素を腸にとどめることになります。素人考えでのむと症状は悪化します。
抗菌薬は有効というエビデンスはなく、世界ではむしろ無意味で有害とされています。
菌を破壊するタイプの抗菌薬は、中にいる毒素が出て、かえって蔓延させるという考えです。
一方、日本では治療中にほかの感染症にかかるのを防ぐため、菌を壊さず増殖を止めるタイプの抗菌薬を使う場合があります。

④治療法は?
腎不全だけなら人工透析。貧血や血小板減少がひどい場合は輸血。
しばらくは絶食し、毒素が体から出るのを待ちます。
脳に毒素が回って脳浮腫になった場合は、浮腫を軽減する薬を使う場合もあるが、あまり効果は期待できません。
対症療法として人工呼吸器をつける程度です。

⑤後遺症は?
脳障害がでることがあります。あと長く続くのは腎臓の障害です。
例えば4、5歳で溶血性尿毒症症候群になって、腎臓に障害を受け、機能が2、3割落ちた状態で回復したとします。
子どものうちはそれでも十分に老廃物を濾過できるのですが、成長すると濾過しなければならない老廃物の量も増えて、機能が追いつかなくなり、腎不全が進行していく人もいます。
また腎臓の血管が壊されて狭くなった結果、成人になってから高血圧になる人もいます。

(引用元より再構築)
引用元:O157感染から血便、死の危険もある合併症HUSとは 朝日新聞デジタル:2019年3月9日

●事件の経過・その2

2011年4月30日~2011年5月2日

2011年4月30日
板橋区保健所が、ユッケ用の食肉を納入した、食肉卸売業者「大和屋商店」へ二度目の立ち入り調査。
納入した肉が生食用として提供されると知りながら、加熱用の肉と同じ作業場で加工し、まな板や包丁を使い回していた事が発覚。
大和屋商店は「生食用は出荷していない。(生食用と誤解されるようなことも)していない」「生食用として使用するかは焼肉店の判断」と主張したと報道。

2011年5月1日
6歳男児の死亡が報道される。食中毒発症患者は47名・内重症者19名、死者2名となる。
この頃より、ユッケに使用された牛肉が「生食用」では無かったとする報道が過熱。

二度目の記者会見

2011年5月2日
フーズ・フォーラス社は2度目の記者会見を行いました。
勘坂社長の主な主張は以下の4点です。

①大和屋商店が「検査済み」と報告していた為、仕入れ契約をしてから細菌検査を一度も行っていなかった。
②問題の食肉は大和屋商店から「ユッケ用の商品として提案された」とし、大和屋商店の「生食用ではない」との主張に反論。
③厚生労働省が定める衛生基準を満たした「生食用」の食肉の出荷実績は無く、国内用の食肉は全て加熱用である。
④商慣習上、他の焼肉店でも加熱用の肉を生食として提供しており、法律に反した食材を使用していた訳ではない。

この記者会見で勘坂社長は、衛生管理が不十分であった事を認め謝罪するも、その語気は非常に荒く、ほとんど叫ぶような口調であった為、マスコミ各社は「逆ギレ会見」などと報じました。

また、勘坂社長は記者会見の中で、

「もしも本当に日本国民の安心・安全を考えるならば、ユッケ大好きですけど…ユッケは販売出来ないようにするのが、今、私が言える立場か分かりませんけど、痛い経験から、それがベストな選択だと私は思います。」

「国内の屠場からの生食用としての(出荷)実績はありません。生食用以外出してはいけないというふうにしてしまえば、明らかに違法ですし、それは即逮捕という…(中略)今回の生食用という記載に関しては、日本で流通はしていないと。」

「私たちは、生食用という件に関しては、不法なものを使っていたわけではなく、日本人の全ての焼肉屋さんと同じものを使用し、その中で私たち、もしくは納入業者さまに何らかの不備があって、このような事態は起こしました。これに関しては真摯にお詫び申し上げます。大変失礼いたしました。」

と発言した事で、厚生労働省や卸売業者に責任転嫁しているとバッシングを受ける事となってしまいました。

●問われる責任の所在

食肉ができるまで

国内で処理される食肉は下記のようなルートで飲食店に出荷されています。

今回の事件では「生食用として使用できない食肉(加熱用)を生食用として使用した事で、食中毒が発生した。」というマスコミの報道に対し、真っ向から反論するフーズ・フォーラス社の見解についてが一つ。

そして「生食用として使用する事は出来ない」とする大和屋商店と「生食用として使用可と案内された」という、
フーズ・フォーラス社の責任の擦り付け合い。この二点が大きく取り上げられました。

●賠償責任の発生要件について

今回の事件で考えられる賠償責任は以下の通りです。

・食中毒による生産物賠償責任

通常、飲食店の故意や過失によって食中毒になった場合、民法第709条「不法行為責任」に該当します。
飲食店は安全な食品を提供する義務がありますので、顧客の注文(契約)に対して、不完全な商品(菌に汚染された食品)を提供した事で食中毒になった場合は、民法415条「債務不履行責任」による損害賠償責任を追及できます。

しかしながら、上記の2点での被害を飲食店側に弁済させるには「食中毒の発生が提供された食事によるものである」因果関係を被害者が証明する必要があります。

被害者がこれらの飲食店による故意や過失を立証するには、煩雑な手続きを要する(飲食の事実の証明・医師の診察・保健所の調査等)為、実際には難しいかもしれません。 

PL法について

そんな被害者の保護の為に定められた法律にPL(Product Liability)法があります。
正確には「製造物責任法」と言い、「製造物の欠陥」によって、人の生命・身体又は財産に被害を被ったことを証明した場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることが出来るという法律です。

この法律は、不法行為責任(民法第709条)の特則であり、前述の不法行為責任のように製造者の故意・過失の立証の有無に関係なく、製造物の欠陥を立証すれば、製造物に対する責任を製造者に課す事が可能です。

どんな事故が対象になるのか

製造者が引き渡した物に欠陥があり、身体や財物に損害を被る場合。
すなわち引き渡した後に発生する損害が対象となります。

例えば、
2011年に日本で発生した「(旧)茶のしずく石鹸」を使用した方の内約2000名が小麦アレルギーを発症したケース、2011年にアメリカで発生した、エアバッグの異常爆発で発生した、死者28名、負傷者400名を超える死亡事故等が挙げられます。

今回の場合では「身体に損害を被った」のが「ユッケに付着した菌」のせいである事ははっきりとしていますので、製造物の欠陥の立証が成された事になります。

今回の事件での争点

今回の事件では、実際にユッケを提供した「フーズ・フォーラス社」、ユッケ肉を卸した「大和屋商店」また、後日フーズ・フォーラス社が起こした裁判の中では、その枝肉を大和屋商店に卸した、埼玉県川口市の食肉問屋「川口食肉荷受株式会社」の三社のうち「どこで肉に菌が付着したのか」を追求する事になりました。

何故かと言うと、上記の図で、焼肉酒屋えびすで菌が付着していた場合は、川口食肉荷受や大和屋商店は被害者に対しての賠償責任は発生しません。
しかし、仮に川口食肉荷受(と畜場)で菌が付着していた場合、卸売りの大和屋商店や飲食店の焼肉酒屋えびすは、食中毒を出した責任に問われる可能性がありますが、川口食肉荷受への債務不履行を申し立てる事が可能です。この場合では食中毒被害者への賠償の多くは川口食肉荷受が負う事になる可能性が非常に高いと考えられます。

ですから、今回のケースでは「いつ・どこで・だれが」肉に菌を付着させたかが非常に大きな争点となりました。

●生食用食肉について

ではここで、勘坂社長の主張「生食用の食肉の出荷実績はない」「生食用の食肉は存在しない」は正しかったのかを検証したいと思います。

実は誤りだった?マスコミの報道について

今回の事件のマスコミの報道は、当初「生食として使用できない肉を使用した」というものでしたが、勘坂社長は記者会見および、ウェブサイト上で次のように発言しています。

これを先程の図に直すと、以下のようになります。

実際に、厚生労働省が肉の種類ごとに実態調査を始めた08年度以降、基準に合致した食肉処理施設は、約12ヶ所ありましたが、出荷されたのは全て馬肉か馬レバーで、生食用の牛肉はありませんでした。

生食用牛肉の出荷ゼロ=厚労省基準満たさず、罰則なし―飲食店、加熱用を転用 時事通信社 5月4日(水)12時29分配信

また、加熱用の肉を生食用として提供する事に対して厚生労働省が罰則を定めていない事が判明した為に、食の安全を問う声が大きく広まる結果となりました。

生食用食肉等の安全性確保について

厚生労働省が所管する法律「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律」(昭和32年6月法律第164号、略称:生衛法)のうち「生食用食肉等の安全性確保について(生衛発第1358号・平成10年9月11日)で、生食用食肉の衛生基準を制定しています。

内容を掻い摘んで説明すると、と畜場での牛・馬の肝臓の処理方法(内蔵の処理時に大腸菌が肉に付かないようにする)や、食肉処理場・食肉販売業・飲食店店舗での生食用食肉の取り扱い(設備や器具を分けて処理する・トリミングの方法の指定・消毒方法や温度管理)について規定した、細菌汚染を防ぐ為のルールです。

これは平成8年に起きたレバーの生食によるO-157食中毒事故がきっかけで厳格化されました。

トリミングと歩留まりについて

前項での「トリミング」とは、肉の表面の細菌汚染を取り除くため、筋膜、スジ等を削り取る行為を指します。

ユッケを提供する場合、トリミング作業で残った牛肉の芯の部分を、細切りにして提供するため、その分コストがかさむ事になります。

これを「歩留まりが悪い」と言います。

と畜場で生体から枝肉(えだにく)へ、食肉処理業者で枝肉から部分肉へ、そして小売り店や飲食店で精肉へと、食肉が食卓に並ぶまでの加工処理の中で、頭や皮、内臓、肉の内面・外面に付着する血液、リンパ腺、余剰脂肪や筋を取り除く必要があります。

「歩留まり率」とは、原料や素材の投入量に対し、実際に得られた生産数量の割合をいいます。

上記の図の場合、700Kgの牛一頭から、実際に精肉として出荷されるのは217Kg。内臓はホルモンとして、油脂は牛脂等になりますが、実に69%部分が取り除かれてしまいます。ですので、この場合の牛一頭に対しての歩留まり率は31%となります。

低価格路線を追求するにあたっては、この歩留まりが利益に非常に大きく影響する為、フーズ・フォーラス社ではユッケ用の肉ではトリミング作業を実施せず、それ以外の肉でも必要最低限しか行っていなかった事が判明しています。

加熱用・生食用食肉のその実

今回の事件では「加熱用」の牛肉を「生食用」と偽って提供していた事がマスコミによって大きく取沙汰されましたが、実はきちんと手順を踏めば「加熱用の牛肉を生食用として販売する」事は厚生労働省によって認められていたというのです。

詳細は(「厚労省課長講演「と畜場から出荷される牛肉はすべて生食用」 を詳細解説〜
腸管出血性大腸菌食中毒問題」)が非常に分かりやすいので、是非ご一読頂きたいと思います。

要約すると、当時、厚生労働省の厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長であった加地 祥文氏によると、「そもそも、と畜場から出荷されるすべての肉は、2000年(平成10年)から国の定めたガイドラインを満たしており、生食が可能。ただ、生食用という表示をしていないだけ。」であると、したがって、 卸問屋や飲食店で衛生基準を守ってトリミング等を行いさえすれば、これまでも堂々と「生食用」として販売する事を国が認めていた、とされています。

上記の図のように、日本国内で食肉は下記のいずれかのルートで販売店に卸されます。

①と畜場(生食出来るが、生食用と謳っていない)→処理業者を通さず直接飲食店へ出荷(生食可)
②と畜場(生食出来るが、生食用と謳っていない)→食肉処理業者か食肉販売業者が生食用として出荷(生食可)
③と畜場(生食出来るが、生食用と謳っていない)→食肉処理業者か食肉販売業者が加熱用として出荷(この時点では加熱用)

この③の場合に、加熱用として出荷された食肉であったとしても「生食用食肉等の安全性確保について(◆平成10年09月11日生衛発第1358号)」の「項目③・飲食店営業の営業許可を受けている施設における調理)」を飲食店側で適切に行えば生食用としての提供は問題が無い事になります。

したがって、食肉処理業者ないし販売業者が「加熱用」として処理したとしても、飲食店で衛生基準を守り、トリミングをしさえすれば「生食用」と認められる事になります。

ですので、当時マスコミが大々的に報道した「生食用」「加熱用」については、厳密には「飲食店が生食用の処理をしていなかった」というのが、厚生労働省の見解です。

しかしながら、当時このガイドラインが食肉業界全体に周知徹底がなされていたとは考えにくく、全ての原因がフーズ・フォーラス社にあるかというと、そうではないようにも思われます。

2011年5月10日の山形新聞「適正処理で生肉提供可能 県が方針転換、国の見解変わり困惑」では、

「焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で発生した集団食中毒事件を受けた措置として、焼き肉店に対して生食用の表示がない生の牛肉の提供を停止するよう指導していた県は9日、方針を転換し、表示がなくても店舗内で適正な処理を実施していれば生肉を提供できるとの見解を示した。その上で店舗の立ち入り検査に乗り出した。適合性が確認され次第、生肉の提供が再開される見通し。県は「国の指導指針があいまいで衛生基準の捉え方が異なっていた」としている。

 厚生労働省が2007年に通知した食中毒予防対策を判断材料に、県は今月6日、生食用の表示がない生肉の提供を停止するよう指導。ところが厚労省が6日夕にホームページ上で示した衛生基準の見解では「07年に示した内容は飲食店で適正な処理を実施しない場合を想定したもの」とあり、表示の有無は問題視していないことが示された。

県は「厚労省が見解を示したのは6日午後6時ごろで、その時点では県内の焼き肉店に対する大半の指導が終了していた」と話す。

 県は9日、あらためて厚労省に衛生基準を確認。同省の判断のあいまいさに振り回された県の担当者は「生食用の表示がなくても飲食店での処理が適正であれば生肉を提供できるとの見解だった。これまでの指導内容と異なる回答で困惑している」と述べた。」

とある為、実際に厚生労働省の定めたガイドラインがいかに現場に浸透していなかったかが伺えます。
当時のマスコミの報道に関しても、この生食用食肉のガイドラインについて言及したものは、そう多くなかったのではないでしょうか。


引用元: 厚労省課長講演「と畜場から出荷される牛肉はすべて生食用」 を詳細解説〜腸管出血性大腸菌食中毒問題
引用元: 山形新聞「適正処理で生肉提供可能 県が方針転換、国の見解変わり困惑」

●フーズ・フォーラスと大和屋商店の泥仕合へ

左:ネット販売での商品説明 右上:当時の出荷伝票 右下:当時大和屋商店がフーズ・フォーラス社に送付したメール

当初は「加熱用の肉しか取り扱っていない」「生食用とするかは焼肉屋側の判断」としていた大和屋商店ですが、後の調査やマスコミの取材等で、2011年5月14日の報道で、従業員による「(肉は)生食用と認識していた」という発言があった事、事件以前のメールで「ユッケ用のサンプルが出来ました」「ホルス(タイン)経産とは違い和牛の血統でその上雌なので味があります」「歩止まり約100%で、無駄がありません。(原文ママ)」と案内していた事などが発覚しました。

また、ネット販売のページがネット上でも拡散され「赤身率が高くユッケやロースで使用できます。」という文言に対して、組織的な隠ぺい工作だと批判が殺到しました。

実際に大和屋商店へ肉を出荷した食肉卸が発行した伝票(画像右上)では、2つの*印は出産を繰り返した子牛が産めなくなった雌の経産牛である事、C1やC2は牛のランクを示す15段階の等級の内、14番目、15番目の「廃用牛」を指している事が確認されています。

衛生管理については、部位の違いに応じて担当の作業員や調理器具を使い分ける事をせず、ユッケ用生肉の賞味期限を設定する為に必要な微生物試験を行わずに、賞味期限を加工日から40日と設定していた事、食肉処理場で解体後、ひと月以上経過した肉も加工、納入していたことが判明。

ユッケ用の肉についても出荷までに2回、肉の表面をアルコールで拭くのみで、トリミングは行っておりませんでした。

こういった事実を鑑みるに、卸売業者側にも相当の責任があったとするのは当然の事と思われます。

左:焼肉酒屋えびすの厨房内の様子 右:フーズ・フォーラス社のマニュアル


とはいえ、大和屋商店がいくら悪質であったとしても、フーズ・フォーラス社に非がないとは限りません。

確かに「 歩止まり約100% 」で「ユッケ用」と謳っていたとて、飲食店での加工時に菌が付着するリスクはゼロにはなり得ませんので、適切な衛生管理を行う義務は飲食店にも存在します。

ユッケ用の食肉は大和屋商店から真空パックで仕入れており、「トリミング済み」という認識だったとし、店舗でのトリミング作業は行っておりませんでした。

実に歩留まり率を97%とした日本一安いユッケ。それを提供する厨房内でのオペレーション(素手で肉を調味液と混ぜる・台拭きで提供する商品が乗った皿についたソースを拭きとる)等の一部の作業は適切で無かったと言わざるを得ません。

創業当時は680円で提供していたユッケを、280円に値下げする営業努力の裏側で犠牲になったのは食の安全でした。

●三度目の記者会見

2011年5月3日~2011年5月24日


2011年5月3日
焼肉酒家えびす砺波店および高岡駅南店を利用した患者は計58名(死亡1名含む)、医療機関入院中33名(うち重症22名)。41 名が腸管出血性大腸菌感染症と診断される。


2011年5月4日
砺波店を利用した 40 歳代の女性患者が入院先で死亡。


2011年5月5日
砺波店を利用した 70 歳代の女性患者が入院先で死亡。

三度目の記者会見

4人目の死亡を受けて、勘坂社長は緊急記者会見(3回目)を行います。
批判を受けた前回の会見からわずか3日後、勘坂社長は憔悴しきった様子で、涙を見せ、土下座で謝罪した。


2011年5月6日
業務上過失致死傷の容疑で、フーズ・フォーラス本社、大和屋商店本社にて家宅捜索。

富山県は砺波店および高岡駅南店に対して無期限の食品衛生法に基づく行政処分(営業停止命令)を下した。
これを受けフーズ・フォーラス社は当面の間、焼肉酒家えびすの全店舗で営業を停止することを発表。


2011年5月13日
フーズ・フォーラス社が被害者への治療費支払いを表明。


2011年5月中旬
集団食中毒による「巨額な賠償金を確保するため」として5月中旬に金沢市保健所を複数回訪れて営業再開を打診したが、保健所は「原因が究明されるまで待った方が良い」と許可しなかった。


2011年5月16日
神奈川県は横浜上白根店を 食品衛生法に基づく行政処分(営業停止命令) を下した。
横浜若草台店に保管されていた未開封の牛モモ肉からO-111を検出したと報道。


2011年5月24日
富山県と横浜市は24日、横浜若草台店で回収した未開封のユッケ用生肉と、死者4人を含む客や従業員19人から検出された大腸菌O111の遺伝子型が一致したと発表。

富山県は、異なる店舗で食事をした患者と未開封の肉から同種の菌が見つかったため、汚染源が店舗納入前の流通段階にあった可能性を示唆。

●倒産そして訴訟へ

2011年6月8日
フーズ・フォーラス社は営業停止を受け資金繰りが悪化、営業再開を断念し、役員以外の全社員90人を解雇。


2011年7月8日
フーズ・フォーラス社、解散。清算手続きへ。


2011年7月11日
初の債権者集会。食中毒の被害者補償額が5億円を超すとみて、清算の為の会社を設立して資産売却を進める意向を発表。

食中毒による生産物賠償責任保険で約1億円、全店舗の一括売却で約3億円、フーズ・フォーラス社と勘坂社長の預金が複数の金融機関に約3億円の、計7億円の原資で被害者補償に当たりたいとするも、預金を担保に融資している金融機関が口座を凍結しており、債務者への債務免除を依頼し、被害者補償を優先する事への理解を求める方針。

負債の内訳は金融機関に約8億円、仕入れ先等に約1億円、元従業員への未払い賃金で約2500万円の計9憶2500万。


2011年10月22日
砺波店を利用後、重症となって入院していた10代の少年が死亡。死者が5人となる。



2011年11月15日
被害者が請求した補償額の合計が約9億円に上った事と報道。


2012年2月10日
フーズ・フォーラス社が金沢地裁に特別清算を申し立て。負債総額は17億7800万円。

フーズ・フォーラス社の資産は約1億5408万円。一方、負債には被害者への損害賠償金(約6億9037万円)に加え、取引業者への未払い金や金融機関からの借入金など(計約10億8821万円)もあり、大幅な債務超過状態だと報道。

「一般の債権者よりも被害者への補償を優先する為、破産手続きではなく特別清算を選択した。」と代理人弁護士。


2012年3月31日
富山県高岡市で、初の被害者説明会を開催。
勘坂元社長が昨年7月以来、初めて公の場に姿を見せ、被害者に向けて直接謝罪した。

遺族や被害者合わせて42人が参加し、富山県の遺族らは説明会後、被害者団体「家族の絆の会」の発足を発表。

元社長の代理人弁護士によると、元社長は特別清算手続きがスムーズになるよう自己破産手続きをすると明かした。
これが認められれば、1億数千万円程度の債権が放棄される見通し。
代理人弁護士は、大和屋商店及び川口食肉荷受に対する損害賠償請求の提訴が5月中旬ごろになるとし、被害者に共同原告として参加するよう呼び掛けた。勝訴した場合、被害者は直接賠償金を受け取れるなどのメリットがある。


2012円4月27日
富山地裁高岡支部に元社長の自己破産を申し立てたことを明らかにした。負債総額は約13億2000万円。

代理人弁護士によると、申し立てた負債総額の内訳は、被害者への賠償額約7億5000万円のほか、フーズ社の取引業者などへの債務で元社長が連帯保証人となっている約5億7000万円など。


2012年8月
フーズ・フォーラス社と被害者は大和屋商店を相手取り約3億円の損害賠償を求め提訴。
フーズ・フォーラス社の被害総額は約12億480万円。内訳は約6憶8500万円の被害者への損害賠償金及び、倒産に伴う営業損失として約5億7000万円とし、今回は一部請求となる。

また、大和屋商店に賠償の資力が無い事からフーズ・フォーラス社が川口食肉荷株式会社への代位請求を行う。


●和解へ

2014年6月5日
フーズ・フォーラス社が、遺族や被害者150人に損害の一部として計約8100万円を補償する事を代理人弁護士が発表。今回の補償が会社解散後初の補償となる。
保険会社から受け取った食中毒の保険金、約8600万円が補償の原資。
諸経費などを除いた上で、慰謝料や治療費などとして同社が認定した被害者1人当たりの補償額の約20%を一律に支払う。


2015年11月
遺族は肉卸業者と和解する方向で検討へ、フーズ・フォーラスと元社長などに対する裁判は継続。


2016年2月15日
富山県警察・警視庁・神奈川県警察の合同捜査本部が、フーズ・フォーラス社の元社長及び大和屋商店の元役員の計2名について、業務上過失致死傷容疑で書類送検した。


2016年2月19日
富山地方検察庁がフーズ・フォーラス社の勘坂元社長及び大和屋商店の元役員の計2名について、嫌疑不十分として不起訴処分とした。


2017年9月7日
大和屋商店とフーズ・フォーラス社及び被害者が和解。
大和屋商店は「被害者に心より陳謝する」として、加入していた保険金の総額約1億円を被害者119人に分配。


2018年3月13日
フーズ・フォーラス社に約1億6千万円の賠償命令。
勘坂元社長や、焼肉酒屋えびす元店長に対する請求は「当時は国の衛生基準が周知されておらず、重大な過失は認められない」と責任を否定。「元店長も会社のマニュアルに従って調理をしていた」として原告側の請求を棄却した。

フーズ・フォーラス社は衛生管理を怠っていたことを認め、賠償責任を争っていなかったが、遺族は「責任の所在が見えてこない」と批判。原告の内2名が控訴へ。


2018年11月7日
東京高等裁判所は一審に続き、食中毒発生での元社長らの責任は認めず、遺族の訴えを退けた。
「食中毒発生を予見や回避出来た可能性があったとまでは認められない」として、一審判決を支持。


2018年12月3日
フーズ・フォーラス社、勘坂元社長・元店長の不起訴処分に対して、 原告の内2名が、約2万5000人分の署名と共に検察審査会へ審査申し立て。


2019年7月8日
富山検察審査会が、元社長・役員ら2人について不起訴不当の議決を下した。
これを受け、検察が再捜査で「起訴」すれば裁判が行われるが、再び「不起訴」となると捜査終結となる。


2020年10月7日
富山地方検察庁はフーズ・フォーラスの元社長及び大和屋商店の元役員の計2名について、「原因菌は一般的に知られておらず、被害の予見は困難」とし、改めて嫌疑不十分で不起訴とした。
検察審査会の議決が強制起訴につながる「起訴相当」ではない為、遺族は再度の審査申し立ては不可能となった。

●遺族の声

事件発生から9年半、捜査は終了しました。
しかし、清算中のフーズ・フォーラス社からは2021年春の時点で、賠償金の支払いはありません。

中学生の次男を亡くした被害者遺族の男性はテレビ局の取材の中で、我が子が亡くなった時の事をこう語ります。
「私らが病院についた時には、もうびっくりしましたね。尋常じゃない程の出血があった。もうすっかりベッドは(血で)真っ赤になった状態。」
半年間、意識が戻らなかった次男はその後、全身をばたつかせ、涙を流して息を引き取った。

事件から4年が経った頃「事件があったから世の中が変わったんだと次男に報告したい。そうでないと報われない」と語った男性は、不起訴判決を受けて「結局、被害者が刑事裁判のために色んなことをして、したくもない民事訴訟を起こしてお金をかけて浪費をかけて 10 年間戦ってきたが、結局何の結果もなかった。というのがこの事件です。」と悔しさを滲ませた。

別の被害者遺族の男性は、食事をした家族5名全員が食中毒を発症。
高校生の長女と中学生の長男は集中治療室で生死を彷徨い、妻と義理の母親を亡くした。

男性は、妻がつけていた指輪を、自身の持つ指輪と一つに加工し、肌身離さず身につけている。

二人の子供は幸いにも一命は取りとめたものの、長男は脳症と診断され、寝たきり状態で、言葉を話すリハビリを余儀なくされた。現在は二人とも元気に暮らしているが、それでも年に数回は定期的に身体に異変がないか検診を受けている。

病院からの請求は1400万円。高額療養費制度で減額されたが、亡くなった妻に代わって家事を行う為、仕事を早退する事が多くなり、現在は貯金を切り崩して生活している。

「刑事も民事も一緒、長い間頑張ってきた。でも、結果はこれだった。ほんと、私たちの気持ちって本当に全然関係ないんだなという感じ。」

小学生になったばかりの6歳の息子を亡くした、富山県で住職を務める男性は、まさか自分が息子のお経を上げる事になるとは思っていなかったといいます。
気持ちに整理をつける事が出来ず、小さな骨壺に入った息子を半年間抱いて眠った。

「事件があったから息子が亡くなってしまった。なぜ息子が死んでしまったのか。その真相が知りたい。」

今よりもSNSが普及していない2011年当時、被害者は自分たちの声を上げる事すら難しく、
事件発生から半年が過ぎても、なんの支援も説明も無かったといいます。

TVを通じて被害者を募り、被害者の会を設置して戦ったものの、結局起訴は叶わず。
感染経路は不明、誰も責を負う事が無いままに事件を追求する手段を奪われた、被害者の方々の無念は察するに余りあります。

「この10年、誰も謝罪にも墓参りにも来ず起訴もされなかった。期待したが、何も変わらなかった。」
「この気持ちのやりようをどこに出すのかやり場がない。」
「抱きしめたいなとか、手を触りたいとか、ぬくもりを感じたいなとかある。でも実際は、そんな
ことはありえない。ありえないんですよ」


引用元:食中毒週刊ネットニュース2021年5月2日号
引用元:5人死亡のユッケ食中毒から10年、遺族「誰も謝罪にも墓参りにも来ない」 : 読売新聞オンライン
引用元:NNNドキュメント’12 救いなき漂流 ユッケ集団食中毒と被害者
引用元:NHK クローズアップ現代 検証ユッケ食中毒 見過ごされた生肉の危険
引用元:FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 見えない光 ~ユッケ集団食中毒事件 被害者家族の5年~


●最後に

2011年当時は、長引くデフレの影響で外食を控える家庭が多く、外食業界では低価格をウリに一品300円以下の均一価格メニューを提供する居酒屋等が多く出店し始めていた時代でした。

そのような国内情勢の中で発生した今回の事件は、飲食店や食肉卸売業者の衛生管理と、行政の規制の甘さが浮き彫りになったケースと言えるのではないでしょうか。

フーズ・フォーラス社や大和屋商店が、賠償責任保険の保険金額をもっと高く設定していたとしたら、被害者に対する賠償も、もう少しスムーズに行えたのではと思うと、残念でなりません。

また、状況から察するに、食中毒等で支払い対象となる、店舗の休業補償には加入していなかった、ないしは満足に付保はされていなかったと思われます。
企業の節税対策として、保険料を損金算入出来るような生命保険には加入していたかもしれませんが、積み立っている解約返戻金も、この賠償額の前には焼石に水だったのでしょう。

挙げれば枚挙に暇がありませんが、やはり社会的な責任を果たす事をせぬまま事業を継続する事は難しく、一旦営業活動を途絶えさせてしまうと廃業は時間の問題となります。

それを底支えする事が可能なのは、やはり保険以外に無いのではないでしょうか。

仮に十分な賠償を行ったとて、亡くなった方々は帰ってくる事はありませんが「ない袖は振れぬ。」では被害にあった方々は納得のしようがありません。

今回のようなケースで、賠償資力に会社の内部留保、現預金を使ってしまうと企業の体力はどんどん奪われてしまいますが、保険はそのダメージを軽減してくれる唯一の方法です。

この記事をご高覧頂きました皆様におかれましては、現在加入中の賠償責任保険や休業補償の契約内容はもちろんの事、銀行や公庫からの借入金対策が盤石に成されているかをこの機会に確認頂き、今回の事故を対岸の火事と思われる事の無いよう、備えをして頂ければと思います。

本文中で引用した報道記事や、ブログ等を下記リンクに纏めております。もしよろしければ、ご覧ください。

リンク:ユッケ集団食中毒事件 参考文献